本屋にて
高校生の頃、学校帰りによく本屋に寄った。
自宅と繁華街は学校から見てまったくの逆方向だったが、
私はまっすぐうちに帰るよりも街に出ることのほうが多かった。
そして、本屋に行ってはバレエや演劇の情報を求めて本を探した。
いまのようにインターネットもなかったし、雑誌の種類も非常にすくなかった。
だからこそ、情報に飢えていた。
わずかな情報を求めて、かわりばえのしない棚を目を皿のようにして眺め、
演劇雑誌の最新号が出ていればむさぼるように立ち読みした。
バレエの本を見つければ、値段とお財布の中身とを何度も照らし合わせて
買おうかどうしようかしばらく悩んだ。
高校生にとっては、演劇雑誌もバレエ関係の書籍も高価だったのだ。
ただ、「新劇」という月刊誌の定期購読を父が申し込んでくれたおかげで
東京の演劇事情については自宅でゆっくり読むことができるようになったが、
それでも知りたいことはもっともっとあった。
その後、バレエの勉強で東京に出てくると、渋谷の本屋によく行った。
そこは芸術関係の書籍が仙台とは比べものにならないほど揃っていて、
何度行っても飽きることはなかった。
どれも高かったからなかなか買うことはできなかったが、
こんな本があるのか、と興奮を覚えながら手にとるのが何よりの楽しみだった。
今日、ジュンク堂に行った。
地下から9階まですべて本で埋め尽くされている巨大書店。
ここに行けば、たいていのおめあての本は手に入れられるはず、
と思わせてくれるほどの品揃えだ。
あまりに種類が多くて見つけ出せない可能性がなくもないが。
道行く人が次第にちいさくなっていくのをガラス越しに見おろしながら
エスカレーターでどんどんあがっていき、9階に行く。
バレエコーナーに向かうと、そこには驚くほどたくさんの種類の本が並んでいた。
初心者向けの指南書なんて、昔じゃ考えられない。
写真をふんだんに使った雑誌も種類が豊富。
DVDもどれを観ていいかわからないほどたくさんある。
時代は変わったなあ、と隔世の感がある。
たくさんありすぎて圧倒されそうになりながら、私は1冊の本を手にとった。
「バレエ用語辞典」。
そんな本があってもいいんじゃないかと思っていたが、やっぱりあった。
バレエ用語はフランス語だ。
それゆえ、口伝えで教わっていく中で、まちがったいい方で覚えたものは多い。
先生がまちがえて教えたのか、子どもだった私が聞きまちがえたのか、
後々にちがっていたことに気づいたものは結構ある。
レッスンを受けているといまだにそういう発見があるのだ。
それと、ブランクが長かったためにあいまいになっているものも多い。
からだで覚えていることを用語として言語化しようとすると途端にあやしくなったりする。
ページをめくってみると、細かい文字がぎっしり。
まさにバレエの動きを用語として言い表わし、言語化しているのだ。
おもしろい。
でも高い。
どうしよう。
しばらく書棚の前で悩んでいたら、待ち合わせの約束をしていた息子からメールがきた。
とりあえず保留、ときめてバレエコーナーをあとにした。
★朗読「不安な気持ち・いやな気分がラクになる本」、更新しました。
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