白いシャツ
しばらく前に、よく行くデパートの催事場で紳士服バーゲンがあった。
息子の好きなブランドもセール品が出ていたので、
忙しくて出向くことのできない息子に代わってあれこれ物色した。
彼がほしがっていたのは、Tシャツとちょっとしたはおりもの。
なかなかよさそうなのはないなあ、と思いながらぶらぶらしていると
白いシャツが目に入った。
真っ白のワイシャツ。
1枚持っててもいいかなあ。
ちらっとそう思った。
このシャツを着るときは、
入学式みたいにきちんとネクタイを締めて、ジャケットを着込んで、
ちょっとしたフォーマルな場面だ。
そのシャツはワイシャツと呼ぶより、スタイリッシュなドレスシャツだった。
しばらくそういう機会は訪れそうにない。
タンスの肥やしになるだけだから、いまはパス。
結局白いシャツは買わずじまい。
そのときは、まさかこんなに早く
白いシャツとジャケットの出番が来るとは思わなかったから。
その知らせがあったのは、日曜から日付が変わるころだった。
「先生の奥さんが亡くなったんだって。いまメーリングリストが来た」
高校の担任の先生の奥さまの訃報だった。
白いシャツを急ぎ調達しようかとも思ったが、
夫の裄丈長めのシャツでなんとか代用できた。
腕の長い息子でもつんつるてんにならずに済み、
黒いネクタイを締めて息子はきのうお通夜に出かけた。
「オレたちが現役の受験生だったときから患ってらしたんだって」
お通夜から帰って暑そうにジャケットを脱ぎながら息子はつぶやいた。
夫から借りたシャツは汗で色が変わっていた。
先生は入学から卒業まで3年間担任してくださり、
いつも悠然と変わらぬ態度で生徒たちを見守ってくれた。
TAP BOYSもほんとうにお世話になった。
先生がそんな状況にあるなんて、みんな知らなかった。
思いもしなかったことでかつてのクラスメート14人が顔を合わせ、
先生の奥さまのご冥福を祈った。
「オレがバレエはじめた、っていうと、みんなわざと『バレーボール?』っていうんだよ。
わかってるくせにさ」
大学では本気で「バレーボール?」と聞かれて、「バレエ」と知ると驚くんだという。
「誰も『バレエ』だからって驚かないんだよ。話が早いよね」
先生のもとで3年間育んだ仲間としての絆は強いんだな、と思った。
いいクラスだった。
それにしても、白いシャツの出番は早すぎた。
奥さまも、残された先生もまだお若いのに。
心からご冥福をお祈りいたします。
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