隔週開催になったセブンイレブンの「FC会議」
セブンイレブンの仙台地区OFC(オペレーション・フィールド・カウンセラー)時代にどれだけ新幹線に乗ったでしょうか。500回は軽く超えているはずです。
なにせFC会議は毎週開催、年間50回として約5年半、さらに東京までの往復ですから単純に見積もっても550回ぐらいは乗っていることになります。
通常はFC会議前日の業務終了後に東京に向かうのですが、時には商品クレームなど突発の仕事が入り当日の始発で東京に向かうことも少なくはありませんでした。「毎週大変だなぁ」と周りから言われることもありましたが、毎週本社に行きトップから経営方針や経済情勢に関する分析などを直接聞くことができるのはとても刺激的でした。また、商品・サービス、さらにはマーケティングの最先端である東京のさまざまな新規業態に直接触れられることは私にとって大きな喜びでした。
そのFC会議が「より現場対応の時間を増やす」という名目で、10月から隔週開催になったと聞いて驚きました。あれほど「毎週、全員が一同に集まりダイレクトコミュニケーションを取ることに意味がある」と、どんな規模になっても毎週開催するといっていたFC会議なのに…。
ただ、前兆はありました。
2006年9月25日の日経MJに、「経営説明会 秋は見送り セブン&アイ 地域単位の会議に」という記事が掲載されていました。
この経営説明会は内部的には「経営方針説明会」といわれ、イトーヨーカドーの売り場責任者、セブンイレブンのOFC以上の社員や役職者などが一同に会し、成功事例のケーススタディを共有化、さらには鈴木敏文会長がグループの抱える課題について檄(げき)を飛ばす行事です(もちろん後者が主目的)。
この記事によると、
「今年から秋の開催を見送り、店舗や部署単位での会議を実施した。同社は店舗ごとに商品の品ぞろえを変えるなど地域性を高める戦略を打ち出しており、地域単位の会議で課題の検証を深める。…(中略)同社は『コスト削減が狙いではない』としており、春の会議でグループ全体の課題を示し、秋はその進ちょく状況を地域単位で検証する機会とする。ただ、これまでは『コストがかかっても春秋2回、一堂に会して話を聞くことに意味がある』(鈴木会長)としていただけに、文字通り経営方針に変化がでたのでは、とみる向きもある」
私がFC会議の開催回数削減を大きな方針変更として捉えたことと同様に、日経MJでも長年一貫していた鈴木会長の経営方針がいま変わろうとしていることを感じているようです。
“FC会議が隔週開催になる”という話を聞いて、私の頭に最初に浮かんだことは、
「これでFCの現場への徹底力は低下するな」ということでした。
というのも、「セブンイレブンの強さ」がどこにあるのかというと、もちろん商品の強さや店舗数の多さ(ドミナント戦略)、コンビニ業界の先駆者としてのブランド力を挙げることができますが、表にこそ見えないものの他チェーンとの大きな違いは、良くも悪くも本部施策の現場への「徹底力」だと私は考えているからです。
その徹底力の強さがどこからくるのかというと、それが「FC会議」なのです。
「エビングハウスの忘却曲線」をご存知でしょうか。
これは心理学者のヘルマン・エビングハウスによって導かれた記憶の再生率に関する法則です。その法則によると人の記憶は、1時間後で56%、1日後には74%、1週間後には77%忘却するとされています。【 出典:フリー百科事典「ウィキペディア」 】
人のモチベーションもこの忘却曲線ほどではないかもしれませんが、同様の曲線を描くのではないでしょか。素晴らしい講演を聞いた時や役に立つと思う研修を受けた後など、「そうだ、自分も頑張ろう!」と思い会場を後にします。しかし、1週間もすると日常業務に忙殺され「頑張ろう」と思っていたモチベーションは影を潜めてしまいます。
毎週開催されるFC会議はこのモチベーションの低下を防ぐ大きな役割を担っています。
全国から約1400名ものOFCが本社に一同に会し、施策の確認と情報共有を行い、トップからの叱咤激励(ほとんど激励はない)を受ける会場の空気は、一種異様ですらあります。このFC会議に参加することにより、OFCの緊張感と危機感は否が応でも高められます。その高められた緊張感と危機感がモチベーションの原動力となり、当日の夜または翌日から現場への本部施策の「徹底力」という形で発揮されるのです。
他のチェーンと比較して、セブンイレブンに特別優秀な人材が集まっているわけではなく、FC会議を30年間続けてきたことがOFCの強さのひとつの要因だと私は考えています。
この会議が隔週になり、間にディストリクト(地区単位)会議等を入れるようですが、果たしてそれで今までのOFCの徹底力を維持することができるのだろうか、と疑問が残るところです。