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2007-07-16

「マルエツ」に見る現場の動機づけ要因

7月13日(金)付の日経MJに「マルエツ、漂う『自主の旗』」という見出しで、首都圏最大の食品スーパー:マルエツが3月末に大株主となったイオンと業務提携を結ぶことになった、という記事が一面に大きく掲載されていました。
この記事内で特に関心を持ったのは、下記の部分でした。

∞∞引用開始∞∞
1995年に商品発注システムをダイエーと統合したマルエツは、商品仕入れの約7割をダイエーに依存していた。
食品メーカーとの価格交渉を優位に運ぶための方策だったが、商品選択の決定権は原則、ダイエーにあった。「新商品を仕入れたくてもいちいち、お伺いを立てなければならない」(マルエツ幹部)ことから、従業員の不満が高まり、士気が低下していった。
そのダイエーはリストラに疲弊する中で営業力を落としていく。これに伴いマルエツの店頭に並ぶ商品の競争力も低下する一方で、機動的な商品政策が取れなかったことが、集客力の低下に直結した。
∞∞引用終了∞∞

私がこの記事に興味を持ったのは、当時のマルエツの経営方針が、コーチング研修時に話している「ハースバーグの動機づけ・衛生理論」のうち最も従業員のモチベーションを下げる要因と一致していたからです。
アメリカの臨床心理学者(行動科学者)であるフレデリック・ハースバーグは、人間のモチベーションについて研究し、実際に企業で働く人を対象に調査も行い、その結果を「動機づけ要因」と「衛生要因」に分けました。

■「動機づけ要因」
①達成 ②承認 ③仕事そのもの ④責任 ⑤昇進 ⑥成長

■「衛生要因」
①会社の方針と管理 ②監督 ③監督者との関係 ④労働条件 ⑤給与 ⑥同僚との関係 
など 

「動機づけ要因」とは、仕事上このような出来事があると多くの人が「満足感」を得ることができ、さらにモチベーションがアップするというものです。これに対して「衛生要因」とは、これらの項目が職場で整っていない、または納得いくものでなかった場合、多くの人が「不満感」を持ち、モチベーションが低下するというものです。

子供の頃、「外から帰ったら手を洗って、うがいをしなさい」といわれましたね。これは、「保健衛生」です。つまり、手を洗ってうがいをしても健康的な体を作ることはできませんが、しなければ風邪のウィルスに感染し、病気になる可能性は高くなります。ハースバーグの「衛生要因」とは、これと同様の性質のものだといえます。

ハースバーグが調査したところによると、職場で「不満足感」を持ち、モチベーションを低下させてしまう項目の第1位は、「会社の方針と管理」でした。

つまり、マルエツの例で言うと、価格交渉を優位に進めるために会社が発注システムをダイエーと統合し、現場の商品選択権を奪ったことです。この「会社の方針と管理」は、多くの従業員に「不満感」を与え、士気を低下させ、集客力が低下するという負のスパイラルを作りました。

特にスーパーやコンビニなど労働集約的産業の場合、「会社の方針と管理」が現場の士気を奪うようなものであった場合、大きなモチベーションの低下につながり、業績を低迷させるということを経営者や管理職は肝に銘じておく必要があります。

また、「衛生要因」への取り組み・改善は、“不満足の減少”にはつながるが、継続したモチベーションのアップにはならないということも押さえておきましょう。
現場のモチベーションを高めるためには、まず「衛生要因」を改善し、その後に「動機づけ要因」に焦点を当てた店作りをしていくことです。


【追記】
2005年3月、ダイエー支援に参加した丸紅が、マルエツとの仕入れ一本化は採算に合わないと判断し、共同仕入は中止になりました。
その後、マルエツでは地域色の強い商品を独自に仕入れて品揃えし、業績を伸ばしていきます。特に青果への客の支持が確実に高まり、高橋社長は「社員に明るさが戻ってきた」と話しています。

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