「弁当男子」が増加中
昨年の秋口から、「弁当箱の売れ行きが良い」という記事を新聞や雑誌等で目にする機会が増えました。
リーマンショック以来の世界同時不況が家計にも影響を及ぼし、多くのサラリーマンがお弁当を持参するようになったからだろうと思っていましたが、原因はそれだけではなさそうです。
日経MJ:2009年2月4日(水)版には「僕ら弁当男子」という見出しで、下記のような記事が掲載されていました。
自分で弁当を作って職場に持参する若い男性、いわば「弁当男子」がじわりと増えている。景気低迷下で節約志向が高まっているのに加え、健康や食の安全、エコといったキーワードにぴたりと当てはまるのが手作りのお弁当なのだ。
百貨店などの売り場でも「弁当男子」を狙った商品でにぎわっている。
東急ハンズ渋谷店の弁当箱売り場では普段はあまり見かけないスーツ姿の男性が増えており、ビジネスバッグにも入るようなスリムタイプの保温弁当箱が売れているそうです。その中でも、タイガー魔法瓶が昨年9月に発売した商品(写真参照)は値段が7,329円と高額にも関わらず、週4個も売れているというのですから驚きです。
また、伊勢丹メンズ館(東京・新宿)のビジネスバッグ売り場では、メーカーと共同開発した弁当箱や500㏄のペットボトルが入るビジネスバッグの売れ行きが好調で、当初用意した240本のバッグが2週間で6割も売れているそうです。
さらに、私がこの記事の中で注目したのは、弁当を作って持参している男性達の声です。
「弁当がうまくできるとその日一日気分がいい」
「弁当だと自分で量や味付けを調整できるのがいい」
「前日の夜に冷蔵庫をのぞきながら献立を考える。作るのが楽しみで、朝は寝坊したことがない」
このような声からは、「弁当を作らなくては…」という義務感は感じられません。それどころか、お弁当を作ることを楽しんでいる様子が伝わってきます。
最近では「弁当男子」以外にも、男性の女性化が進んでいるように思います。
例えば、
■若い男性の「甘党化」
この傾向はファミリーマートの「男のスィーツ」に代表されるように、コンビニの男性向けスィーツの品揃えが充実していることや、その販売が伸びていることからもわかります。
■アルコール消費量の低下
20代男性の34.4%がお酒を飲まなくなっており、その比率は30代男性よりも6.8ポイント高くなっています(2007.8.26「若者の『消費意欲』は低下傾向」をご参照ください)。しかし、仕事帰りにお茶をしながら友人とおしゃべりをする男性は増えていると言われています。
■オフィスグリコが伸びている
「オフィスグリコ」とは、顧客の職場に専用のボックスを設置し、その中にお菓子を入れておき、食べるごとに1個100円の代金をボックスに入れてもらうという㈱江崎グリコが開発した無人販売方式です。
つまり、富山の置き薬のお菓子版です。
このオフィスグリコが2008年12月末で設置数10万個を超え、年間売上高は30億円に達しています。また、その利用者の70%が男性です(日本経済新聞:2009.2.1)。
これらは、男性の女性化を知るほんの一事例に過ぎません。この他にも「アロマを楽しんでいる男性が増えている」「若い男性の美容院利用率が増えている」など、身の回りを見渡せばいくらでも事例はあるでしょう。
青年文化の歴史的変容に詳しい上智大学の藤村正之教授は次のように述べています。
「若者世代の男性の変化に女性の意識と社会の制度が追いついていない」
「彼らは『まったり、ラクに生きたい』と思っている。そういう世代を男らしくないと批判するのは正しくない。高度成長期ともバブル期とも違う行動様式や価値観を持つ世代が育っているという認識が、社会にも女性にも不足している」
(日経MJ:2009.1.26より抜粋)
確かにそうかもしれません。
そのような行動様式や価値観は共感しがたいものがありますが、まずは世代間の「違い」として受けとめることが必要なのでしょう。
その上で、過去の経験や価値観にとらわれない若者男性のニーズに合わせた商品やサービス、さらには販売方法を開発することのできる企業のみが、これからの新規需要を開拓することが可能となるのでしょう。