IY「下取りセール」と鈴木敏文氏の発想
先週の日経ビジネス(5月25日号)の特集は「物欲消滅 『買わない消費者』はこう攻めよ」でした。その中でも私が注目をしたのは、イトーヨーカドーが実施した「下取りセール」に関する記事です。
セール初回はリーマンショック後の買い控えが深刻になった2008年12月27日~31日、コートやスーツなど5品目について買い上げ金額5000円ごとに1点1000円で下取りする条件でスタートしました。
初回の下取り点数は10万点にも及び、イトーヨーカドー社内の予想を大きく上回る反響で、その後も、2009年1月~4月にかけて下取り品目を追加しながら計5回実施されました。
下取り件数は回を追うごとに増え、6回目では買い上げ点数が100万点を超え、累計では270万点近いモノが下取りされたことになります。
しかし、なぜ下取りセールはこのように好評だったのでしょうか。
割引率を見てみると、1~2回目は20%、3回目から6回目は買い上げ金額3000円ごとにつき1点500円での下取りなので16.7%です。
通常、イトーヨーカードーの売り場では2~3割引きのセール、いやそれどころかさらに値引率の高いセールが頻繁に行われているにも関わらず、客の購買意欲を刺激することは出来ませんでした。
しかし、単なる値引きセールでは購入しなかった客が下取りセールでは積極的に購入しています。この現象は、「価格だけが客の購買動機につながるのではない」という考え方の検証にもなると思います。
2003年1月9日の日本経済新聞(朝刊)の「経済教室」で、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長は下記のような提言をしていました。
モノ余りの時代に入ったことで、もう1つの重要な要素がある。それは消費者の心理だ。 モノが充実している以上、消費者の「心理」を変えなければ売上は伸びないからだ。このため小売業では、品ぞろえの豊富さやサービスの質の高さなど総合した要素が業績を左右するようになっている。
日本企業は、徹底的に消費者の側に立って考えることで、消費者が「買う気を起す」ような質の高い製品やせービスを提供していくべきである。これには、組織全体が、経営目標を「価格の引き下げ」から「新規需要の開拓」に切り替える必要がある。
どの家庭にもタンスや食器棚などに使われないで眠っているモノはたくさんあるでしょう。家の中にモノがあふれていれば、「もったいない」という気持ちも働き、敢えて新しい商品を買おうとする意欲が減退するのも当然です。
しかし、有料で下取りしてくれた上に、再利用してくれるとなれば話は別です。
ゴミに出すのとは違いモノが無駄にならないし、環境にもやさしい、さらには買い物をした商品を保管するスペースも確保できる。
そのために、「だったら、購入しよう!」という心理的な変化が生じたのでしょうか。
だとすると、今回の下取りセールは鈴木会長が提言していた「新規需要の開拓」を、新たな販売体制(サービス)で実証したことになります。
先週の月曜日にテレビ東京系で放映された「カンブリア宮殿」のゲストは鈴木会長で、顧客ニーズの把握法について話をしており大変勉強になりました。明日の第2回目では「ザ・プライス」の誕生秘話も含め、低価格ニーズへの対応についての考え方が聞けるようなので楽しみに見たいと思います。