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2009-05-31

IY「下取りセール」と鈴木敏文氏の発想

先週の日経ビジネス(5月25日号)の特集は「物欲消滅 『買わない消費者』はこう攻めよ」でした。その中でも私が注目をしたのは、イトーヨーカドーが実施した「下取りセール」に関する記事です。

セール初回はリーマンショック後の買い控えが深刻になった2008年12月27日~31日、コートやスーツなど5品目について買い上げ金額5000円ごとに1点1000円で下取りする条件でスタートしました。

Iy_2 初回の下取り点数は10万点にも及び、イトーヨーカドー社内の予想を大きく上回る反響で、その後も、2009年1月~4月にかけて下取り品目を追加しながら計5回実施されました。

下取り件数は回を追うごとに増え、6回目では買い上げ点数が100万点を超え、累計では270万点近いモノが下取りされたことになります。

しかし、なぜ下取りセールはこのように好評だったのでしょうか。
割引率を見てみると、1~2回目は20%、3回目から6回目は買い上げ金額3000円ごとにつき1点500円での下取りなので16.7%です。

通常、イトーヨーカードーの売り場では2~3割引きのセール、いやそれどころかさらに値引率の高いセールが頻繁に行われているにも関わらず、客の購買意欲を刺激することは出来ませんでした。
しかし、単なる値引きセールでは購入しなかった客が下取りセールでは積極的に購入しています。この現象は、「価格だけが客の購買動機につながるのではない」という考え方の検証にもなると思います。

2003年1月9日の日本経済新聞(朝刊)の「経済教室」で、セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長は下記のような提言をしていました。

モノ余りの時代に入ったことで、もう1つの重要な要素がある。それは消費者の心理だ。 モノが充実している以上、消費者の「心理」を変えなければ売上は伸びないからだ。このため小売業では、品ぞろえの豊富さやサービスの質の高さなど総合した要素が業績を左右するようになっている。

日本企業は、徹底的に消費者の側に
立って考えることで、消費者が「買う気を起す」ような質の高い製品やせービスを提供していくべきである。これには、組織全体が、経営目標を「価格の引き下げ」から「新規需要の開拓」に切り替える必要がある。

どの家庭にもタンスや食器棚などに使われないで眠っているモノはたくさんあるでしょう。家の中にモノがあふれていれば、「もったいない」という気持ちも働き、敢えて新しい商品を買おうとする意欲が減退するのも当然です。

しかし、有料で下取りしてくれた上に、再利用してくれるとなれば話は別です。
ゴミに出すのとは違いモノが無駄にならないし、環境にもやさしい、さらには買い物をした商品を保管するスペースも確保できる。

そのために、「だったら、購入しよう!」という心理的な変化が生じたのでしょうか。

だとすると、今回の下取りセールは鈴木会長が提言していた「新規需要の開拓」を、新たな販売体制(サービス)で実証したことになります。

先週の月曜日にテレビ東京系で放映された「カンブリア宮殿」のゲストは鈴木会長で、顧客ニーズの把握法について話をしており大変勉強になりました。明日の第2回目では「ザ・プライス」の誕生秘話も含め、低価格ニーズへの対応についての考え方が聞けるようなので楽しみに見たいと思います。

2009-05-24

百貨店のPB関連販売

5月19日の日本経済新聞:朝刊に
「セブン&アイ コンビニPB世界展開」という記事が掲載されていました。

セブン&アイ・ホールディングはプライベートブランド(PB=自主企画)商品の世界市場での展開に乗り出す。世界で合計36000店あるコンビニエンスストア「セブンイレブン」向けを中心に開発・販売する。主に食品で原材料調達を一本化すると同時に最適な生産委託先を選ぶことでコストを削減。メーカー品より2~3割安いPBの販売額を3年後をめどに1兆円に増やす。世界同時不況のなかで、低価格品を拡充し流通業のグローバル化が進む世界市場での競争力を高める。

この記事を見て、今後ますます大手流通業社間のPB販売合戦は激しさを増していくのだろうなと考えていました。

Photo_2 そんな思いを抱きながら、いつも通うスポーツジムに向かっていたところ、途中にある西武百貨店(池袋)の酒売り場で信じられない光景を見ました(写真)。

3月1日のコラム「百貨店にセブンプレミアム登場!」で、西武百貨店にPBを専門に扱う売り場が出来たことは紹介しましたが、ビール売り場の冷蔵ケース前にPBの「乾き物つまみ」を関連陳列するとは・・・

「百貨店もここまでやるか!」と正直驚きました。

日本百貨店協会の発表によると、4月度売上高は全国平均で-11.3%と14ヶ月連続で前年比を下回る大変厳しい状況が続いています。このような売上状況の中、「百貨店でPBを売るのはいかがなものか・・・」などと、言って いる場合ではなくなっているのでしょう。

売上の比較的落ち込みの少ない食品関係で、 少しでも売上を作っていこうとする百貨店の涙ぐましい努力を見た思いがしました。

2009-05-17

西友の「298円弁当」を食べてみました

先日、大手スーパーの西友が298円の弁当を発売したという新聞記事が出ていました。

最近、群馬県や栃木県など地方のスーパーに行くと298円の弁当を見かけることが増えています。しかし、大手スーパーが、それも首都圏で298円の弁当を販売するというのは驚きでした。

そこで早速、池袋(東京:豊島区)のサンシャイン60に隣接している「サンシャイン西友店」に行ってみました。
Photo_2 私が店に着いたのは12時15分頃、裏口から入ってすぐの弁当・惣菜売り場は昼食を買い求めるサラリーマンやOL、工事現場の人などで大変混み合っており、クリーニングの受付カウンターまで臨時のレジとして使われていました(写真)。

「298円弁当」は通常の弁当陳列棚のほか、レジ前のワゴンにも大量に陳列されていました。また、隣のワゴンでは「68円おにぎり」も販売されていて、どちらもよく売れていました。
Photo_3
ワゴンでは「ハンバーグ弁当」「焼肉弁当」「サケ弁当」と3種類の298円弁当が販売されていたので、私は「サケ弁当」(写真)を買ってみました。正直言って「この価格では味や内容は期待できないな」と思っていたのですが、食べてみるとそこそこ満足のいく内容でした。

まずメインのおかずとなる「鮭」ですが、この価格だと「鮭」ではなく安価な「カラフトマス」を使っているのだろうと思っていました。しかし、鱗を見るかぎり確かに鮭でした。他には、から揚げが1個、煮物(しいたけ・こんにゃく・里芋・人参 ・がんも)、きんびらごぼう、つけもの(2切れ)が入っていておかずとしては十分な量です。
ただ、残念なのはご飯の量が少なかったことです。通常、コンビニやスーパーで販売されている幕の内弁当のご飯量は250gぐらいあるのですが、「298円弁当」は計ってみたところ200gしかありません。
しかし、女性やお年寄りなどには十分な分量かもしれませんね。

Photo_4 「サンシャイン西友店」の周りには昼食時のみ弁当を350円で販売している店(写真)や移動販売車なども多く、昼食時の価格競争は大変激しそうです。

残業時間の短縮や賞与の減額などで収入が減っているサラリーマンやOLにとっては大変ありがたいことだと思いますが、経営する側にとっては厳しい環境だなと改めて感じました。

2009-05-10

宇都宮餃子と街おこし

いつも「石川和夫の流通業界ウォッチング」をお読みいただき、ありがとうございます。
この度、ブログのスタイルをリニューアルしました。

今までは2週間に1回のペースで流通業界に対する提言を中心に書いてきましたが、これからは流通業界だけではなくその競合相手となる飲食業やサービス業なども含め、日常の中で「見たこと・感じたこと」を“より軽いタッチ”で書いていきます。
更新は週1回(日曜日)を予定しています。

さて、そんなブログのスタイルを変えようと思い立った5月の連休、実家の宇都宮(栃木県)に行ってきました。

Photo_7 午後の2時ごろJR宇都宮駅に着いて駅ビルを出ると、駅前にある「餃子館」など数軒の餃子専門店は軒並み行列ができていました。おそらく、ゴールデンウィークを利用して遠方から遊びに来た人たちなのでしょう。
皆さん手には「宇都宮餃子マップ」(写真)を持っていました。

餃子マップを見ると、「宇都宮餃子会」に加盟している餃子専門店は宇都宮市中心部だけで38軒。地図周辺の郊外も含めると57軒もあります。

「宇都宮餃子会」は宇都宮市が餃子消費量日本一であることをよりPRしようと、平成5年に市内にある店舗が中心となり結成されたそうです(宇都宮餃子会HPより)。
その後、観光協会も力を入れ始め、駅前には「餃子像」(写真)まで作られました。さらには「B級グルメブーム」という追い風もあり、「宇都宮餃子」の知名度は一気に全国区になりました。
Photo_6 今では、地元が持っている“地域資源”を利用した地域活性化(街おこし)の成功事例として取り上げられる機会が増えています。

宇都宮餃子がこのように有名になるとは、宇都宮で生まれ育った者としては驚きです。なぜなら、私にとっての餃子は、高校生時代の下校時に「買い食い」するおやつだったからです。

特に部活で遅くなった日はお腹が空きます。また、秋から冬にかけての自転車通学は寒さとの戦いでもありました。そんな高校生達にとって、途中にある餃子専門店「みんみん」はとてもありがたい存在でした。
(この「みんみん」は馬場通り4-2-3の本店です)

まず、店に入ると「水餃子」を注文し、スープの中に自分の好みで作った辛めのタレをたっぷりと入れて食べ、スープまで全部飲んで温まります。それから、「焼き餃子」か「揚げ餃子」を食べるのがいつものパターンでした。

しかし、今では焼きたて餃子とビールという組み合わせが、何よりだと感じる年になっています。
時代を経ても「みんみん」のシンプルな餃子は変わりませんが、私にとっての餃子は「おやつ」から「つまみ」へと変わっています。

2009-05-05

板橋イナリ商店街「コン太村」

現在、日本全国にはどのくらいの商店街があるのでしょうか。
「平成16年度版全国商店街名鑑」(全国商店街振興組合連合会)を見ると、平成15年6月末で、『13,095』という商店街数を確認することができます。また、「東京都商店街実態調査報告書」(東京都産業労働局)の平成19年度版を見ると、東京都の商店街数は、『2,717』と記されています。

この東京都の数値は平成16年度対比で約97.5%です。この比率に当てはめると、平成19年度の全国商店街数は12,767程度と推測することができます。しかし、地方の経済的な厳しさや後継者難、店舗の老朽化・陳腐化、魅力ある店舗の不足、商店街活動に対する参加意識の低下など、商店街の置かれている状況を考えると、全国の商店街数はさらに大きく落ち込んでいると考えられます。

そのような全国の商店街で盛んに行われているのが、「空き店舗」を利用した商店街活性化策です。

Photo その成功事例のひとつとして、4月6日(月)の日経MJに取り上げられていた東京都板橋区:板橋イナリ商店街にある「コン太村」に行ってきました(写真)。
コン太村」は、商店街の空き店舗対策として実施されたコンテストで「昭和レトロゲーム博物館」のアイデアが評価され、2005年に期間限定で営業されました。その「コン太村」が今年の3月に再開され、休日には300人程度が訪れているというのです。

Photo_2 私が行った日は、天候にも恵まれた土曜日の午後で、子供同士や親子連れなど20人程度が昔懐かしいゲームを楽しんでいました。
ゲームのほとんどは、昭和時代(50年頃のものが多い)に駄菓子屋の店頭などにあった10円玉で遊べるゲーム機で、「新幹線ゲーム」やすごろくで全国を制覇する「国取り合戦」などです(写真)。

館内では駄菓子やラムネなどの飲料も販売されていて、4名ほど座れるテーブルとイスがあります。私はラムネを飲みながら、しばらく館内の様子を観察していたのですが、子供達の夢中になって遊んでいる様子が印象的でした。構造としては単純なゲームばかりですが、いまの子供達にはそれがかえって新鮮に映るのでしょう。

また、客の中には、30~40歳代の男性が一人で来店している姿もありました。
館長さんらしき人にお話を伺うと、
「懐かしさからか、遠方から訪れる人も多いんですよ」
と壁に貼ってある日本地図を指差しながら話してくれました。
「来店マップ」と書かれた日本地図には、北は北海道:室蘭から南は四国:徳島までたくさんのシールが貼られ、その中でも近畿圏からの来店が目立っていました。

しかし、このような空き店舗を活用した施設開設は商店街の力だけではなかなかできないようです。

コン太村」は開設にあたり、ゲーム機の所有者である現館長や近隣住民に協力を求めるのはもちろんのこと、近隣企業に館内の壁紙を提供してもらったり、デザインを同じ区内にある東京家政大学に手がけてもらったり、ゲーム機の修理を地元の町工場に無償で対応してもらったりと、地域住民や企業等との連携を積極的に図っています。

今後、商店街を活性化するためには単なる商店の集積としての魅力だけではなく、「地域資源」を有効に活用して、その活用成果を発信する『地域交流拠点』としての魅力作りが必要なのだということを改めて感じました。

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